ウラジミール・ナボコフ ”ロリータ”

 「ロリコン」というワードの語源ともなった作品。妻に逃げられたフランス人のハンバートはアメリカに渡り、下宿先の娘である十二歳の少女ロリータに心を奪われていく。(こう書くと妻に逃げられたショックから少女に惹かれたようだけど、ハンバートのガチロリコンぶりは少年時代にまで遡る根深いもので、そのあたりの経緯も冒頭でねっちょりと詳しく語られる。)

 あまりにもロリータに傾倒してしまった挙句、ロリータの母親と結婚するという暴挙に出るハンバート(なんで?と思われる向きもあろうが、何を隠そうハンバートは超絶イケメンのモテ男という設定なのだ!)。しかしロリータの母は生意気なロリータに手を焼いていてサマースクールに送り込んでしまう。さらにハンバートにとって悪いことに、ロリータは全寮制の学校に行くことになっているのだ。狂気に駆られたハンバートは妻殺害の計画を練るが、どうしても妻をあわれに思う気持ちが先に立って実行できない。

 ある日、ハンバートが家に戻ってくると妻が錯乱している。ハンバートのロリータに対する想いが綴られた手紙が発見されてしまったのだ。ハンバートをケダモノ呼ばわりして家から駈け出して行った妻は、なんと、車にはねられて死んでしまう。

 望外の幸運を得たハンバートはいそいそとロリータをサマーキャンプに迎えに行き、妻が病気だと嘘を言ってロリータ(今やハンバートの義理の娘になった訳だけど)をまんまと引き取り、グロテスクなロードムービーよろしくモーテルを転々としながらロリータと情欲の限りを尽くす。

 というのがこの本のあらすじなんですが、まず驚いたのが主導権を握っているのがハンバートで無くロリータだという点。そもそも二人は恋愛関係にある訳ではなく、ハンバートが一方的にロリータに欲情して恋焦がれるという関係で、ロリータの方はハンバートのことをなんとも思っていない(ハンバートがある男を殺すのはこれが原因だったりする訳ですが)。ロリータに物を買ってやったり行きたいところに連れて行ってやったりして最大限にご機嫌をとってもハンバートが得られるものといえば、反抗的な態度とたまのセックスだけ。ハンバートも身寄りのないロリータに、オレが逮捕されたら児童養護施設行きだぞと脅してみたりするものの、結局はロリータの機嫌を伺う羽目になる。

 普通に考えたらただの鬼畜なんですが、ロリータの機嫌を窺うハンバートからは哀れさや滑稽さが漂います。最後の方のシーンで、ロリータをその少女性ゆえで無く本当に愛しているとハンバートが悟るシーンはグロテスクで身勝手なのにもかかわらず心を動かすモノがあります。

 あとがきでナボコフの「小説を読む事はできない。ただ再読することができるだけだ」という言葉が紹介されてるんですが、またいつか再読してみたいです。