The immortal life of Henrietta Lacks (かなり前に)読みました その5 最終回 

Henriettaさんは黒人女性で黒人には人体実験の被験者として利用されてきた歴史があります。そのため事実を知った親族たちの悲しみと怒りは凄まじいものがありました。
 Henriettaさんの娘であるDeborah(この本の筆者が取材し後に個人的な親交にまで発展します)さんは1985年に出版されたHeLa細胞に関する本を読んで母親が受けた苦痛を知り精神的なショックを受けます。ちなみに彼女は白人不信に陥り、この本の著者であるRebecca Skloot氏に対して最初はとても警戒感を抱いていました。様々な危機を乗り越えつつ徐々に二人が打ち解けて行く様子も本書に描かれています。
 前述した知的財産権の問題と絡んで、病院を訴えて賠償金を取ろうとする親族も現れます(弁護士を詐称する詐欺師が訴訟を炊きつけたことも書かれています)。
 その一方でHeLa細胞に関するBBCのドキュメンタリーが作成される等して徐々に世間の認知が高まっていきます。Henrietta Lacksを記念してMorehouse School of Medicineでシンポジウムが開催され、シンポジウムの発起人がアトランタ市に10月11日をHenrietta Lacks Dayにするよう働きかけます。Henriettaさんの親族はこのシンポジウムに呼ばれ、科学者たちがついにHenrietta Lacksの貢献を認めた事を大変喜びます。またJohns Hopkinsの研究者がHenriettaさんの娘Deborahに、HeLa細胞を染色して撮影した美しい写真と謝罪の手紙を送ります。こうした科学者コミュニティからの認知と謝罪によってHenriettaさんの親族の態度も軟化していくところで本書は締めくくられています。
 医療倫理モノとしてかなりオススメです。また英語も簡単なので凄く読みやすいと書きたいところですが、読みにくいです。なぜかと言うと、著者の方針で黒人たちの会話がそのまま文章になっているからです。黒人英語(エボニクス)には独特のルール(例えば進行形をbe動詞なしで使うことやいわゆる三単現のsを省略すること、二重否定を肯定の意味でではなく強い否定の意味で使うなどです)があって非常に読みにくいです。