Netflix 「ブラッドライン」は機能不全家族のアダルトチルドレン祭り

f:id:kajimasanori:20210809125131j:plainDayron VillaverdeによるPixabayからの画像

 

Netflix ドラマ「ブラッドライン」、なんとなく視聴を始めたら、気がついた時にはどハマりして、一気に最終話まで見てしまった。

フロリダキーズという場所がアメリカにあります。フロリダ半島の南端に、約300kmに渡って連なる島々で、本土から一番遠い西の端っこにあるキーウエスト島はヘミングウェイの家があることでも有名です。本土から島々を結ぶオーバーシーズハイウェイ(有名なセブンマイルズブリッジもこの道路の一部)と呼ばれる国道があり、風光明媚な観光地として世界的に有名です。 

このフロリダキーズでこぢんまりとしたリゾートホテルを営む、地元の名家・レイバーン家が、家族病理的な闇によって破滅に突き進む、というのが「ブラッドライン」のあらすじです。

ホテルの45周年記念パーティーに出席するため、長男ダニーがマイアミから戻って来た。パーティーが終わった後もダニーは地元に残ることになり、家族は困惑しつつも受け入れることにするところからストーリーが始まる。

レイバーン家はホテルを経営する夫婦と、ダニー、ジョン、メグ、ケヴィンの4人きょうだい(さらに一人サラという女の子がいるが子どもの時に事故死している)だ。

ダニーは一家の鼻つまみもので、唯一地元を離れてマイアミで生活していたが、経営していたレストランの経営に失敗した後は、悪い仲間と付き合うようになって逮捕歴もある。甘いマスクの痩躯で、人当たりが良さそうに見えるが、実のところは周りの人を都合よく操作しようとするサイコパス・タイプ。

ジョンは、何度も表彰された優秀な刑事で、高校生の頃から付き合っていた女性と結婚して二児の父となった。責任感が強く性格的に安定していているので、家族や周囲の人から頼られ、面倒を見るタイプで、外見的にも長身でがっちりした体型。

メグは弁護士で、学業のために一度地元を離れたが、ファミリービジネスの顧問弁護士をするために卒業後は実家に戻ってきた。性格的には学業優秀な地味な「良い子」タイプで、ジョンの部下の刑事と付き合っている。

ケヴィンは地元でヨットの修理会社を営んでいるが、会社は破産寸前で妻との関係も破綻寸前。何かトラブルがあると兄のジョンに助けてもらおうとする自立心の無さ、酒や薬物に溺れる弱さを抱えている。

最初は、鼻つまみもののダニーを、理解ある家族が家に泊めてあげたり、ホテルでの仕事を世話してあげたりして、暖かく迎え入れようと努力するストーリーだと思わせておいて、話が進むにつれて、過去に悲劇的な出来事があり、ダニーをスケープゴートにしてしまった家族の罪悪感と、その感情を利用するダニーという構図が浮かび上がってくる。

夫婦は楽園のようなホテルを経営して経済的に成功し、子どもたちも弁護士や刑事などのステータスの高い職業について家庭もあるレイバーン一家は地元では名家とみなされているが、実のところは機能不全家族で、子供たちはアダルトチルドレンだ。

以下にアダルトチルドレンの類型を引用する。

ヒーロー(hero / 英雄)

 ある分野において家族の外、世間に評価をされる子どもで、その子のさらなる活躍に家族が期待して、それに熱中するあまり、両親の冷たい関係が一時的に良くなったりします。そうすると子どものほうでも、その期待に応えつづければならないので、ますますがんばってしまう子ができあがります。
 こういう子が世間に出て、何らかの挫折にあったときに、問題が発症することが多くあります。

スケープゴート(scapegoat / いけにえ)
 ヒーローの裏返しにあるのが、スケープゴートです。
 一家の中のダメをひとえに背負いこまされているような子です。
 いっけんそのようには見えない非行型のスケープゴートもあります。
 この子さえいなければ、すべては丸く収まるのではないか、との幻想を他の家族のメンバーに抱かせることによって、その家族の真の崩壊を防いでいます。
 家族の感情のごみ箱ともいえることでしょう。

ロスト・ワン(lost one / いない子)
 けっして目立たないことによって、存在し続ける子です。「壁のシミ」のような存在です。
 とにかく静かで、ふだんはほとんど忘れ去られています。家族がいっしょに何かやろうというときにいないのですが、いなくなったことにも気づかれないような子です。
 本人はこうした形で家族内の人間関係を離れ、自分の心が傷つくことを免れようとしています。

プラケーター(placater / 慰め役)
 一家の中でいつも暗い顔をしている者、たとえば夫の飲酒でため息をついている母親や、妻の狂奔に疲れ果てている父親を、有言無言にいつもなぐさめているような子です。
 家族の中の小さなカウンセラーともいうことができるでしょう。

クラン(clown / 道化師)
 慰め訳の亜種として存在する子です。たとえば親たちの間にいさかいが始まり、家族に緊張が走るような時、突然とんちんかんな質問をして笑わせたり、歌い出したり踊り出したりする子です。
 こういう子はふだんから表面的には非常にかわいがられていて、ペット的な存在です。本人もかわいがられることを楽しんでいるようなのですが、道化師の仮面の下にはさびしい素顔がひそんでいます。

イネイブラー(enabler / 支え役)
 他人の世話を焼いてばかりいることで、自分の問題から逃げ回っている子です。偽親とも呼ばれ、第一子がこの役につくことが多いですが、長男がヒーローやスケープゴートになってしまうと、その下の長女などがこの役につくこともよくあります。
 母親に代わって幼い弟妹の面倒をみたり、ダメな父親にかわって母親のケアをさせられることで情緒的近親姦になっている場合もあります。
 こういう子は成人してからもイネイブラーになることが多いです。


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ダニーが「スケープゴート」なのは間違いないです。ジョンは「ヒーロー」であり、本来長男であるダニーの役割であった「イネイブラー」の役割も果たしていると考えられます。メグはある時は「プラケーター」であり、ある時は「ロスト・ワン」、ケヴィンは「クラン」でしょうか。

 

以下ネタバレを含みます。

ダニーがティーンエイジャーだった頃(おそらく14−15歳くらい)、母サリーの家出に打ちひしがれていたサラを慰めるためにボートで海に連れ出した際に、海の事故でサラが死んでしまいます。これ自体悲劇ですが、さらに、逆上した父ロバートがダニーに暴行を加えて大怪我をさせてしまいます。この事実を隠すために、警察の取り調べに対して家族全員でダニーは車にはねられて怪我した、と嘘をつくことにします。ダニーが家族のために「スケープゴート(生贄)」となったことで、家族の恥は隠蔽され、表面上はレイバーン家の日常は戻って来ました。

生贄に捧げられたダニーは家族に恨みを抱くと同時に、罪悪感を利用して家族を操作することを覚え、一方で残りの家族はダニーを厄介者扱いすると同時に罪悪感から甘やかすようになります。

 また、家族全員で偽証して危機を乗り切った「成功体験」から、たとえ法を犯しても家族のトラブルは隠蔽して表面上の平穏を取り繕うのがレイバーン家の不文律となってしまい、雪だるま式に悪事が大きくなって、とんでもない事態を招きます。

 

以下ラストシーンのネタバレあり!

 ジョンとダニーの隠し子が対峙するラストシーンですが、ジョンが全ての真実を語るのか語らないのかは視聴者の想像に任せられます。

僕は、ジョンは真実を語らないだろうと思います。なぜなら、その直前にトラブルに嵌まり込んで警察に追われるケヴィンをキューバに逃す手伝いをしているからです。

幼少期の「教育」の成果、あるいは三つ子の魂百までと言いますしね。

 


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