”利己的な遺伝子”その2

  • 皆が利己的にふるまう殺伐とした社会以外の選択肢は無いのか?

 リチャード・ドーキンス博士によれば、人間が持つ「意識」は遺伝子からの解放・反逆を可能にする素晴らしいツールです。利己的にふるまうよう指示する遺伝子達の専制支配に反逆することができる唯一の生物が我々人類なのです。
 人間は、利他的に振る舞うように教育したり協定を結んだりすることができます。法律は無制限な利己的行動を禁止していますし、道徳や宗教は隣人に対して利他的である様指示しています。法律や道徳・宗教は人間の「意識」の産物で他の生物には見られません。

  • その他面白いと思ったこと

人間の寿命を伸ばしたいなら、ある年齢以前の繁殖を禁止すればいい。

 これはかなり突飛なアイデアに思えます。そもそも、ある遺伝子が自然淘汰によって他の遺伝子に勝利できるのは、その遺伝子を持っている個体がより多い子孫を残すことができるからです。よって個体の寿命を縮めるような遺伝子でも、繁殖に悪影響を及ぼさないのであれば自然淘汰されることは無いのです。例えば80歳の人にガンを発生させる遺伝子は繁殖に全く影響しないために、ガンを引き起こさない対立遺伝子に比べて不利にならないのです。一方繁殖年齢以下の人にガンを引き起こす遺伝子は次世代に自らを伝えることができないためその数をどんどん減らしていきます。
 ということは例えば40歳以下で子供をつくることを禁止すれば、38歳の人に致死的な病気をもたらす遺伝子を持つ人の繁殖の機会を奪いますからその遺伝子は淘汰されます。このようにして寿命を短くするにもかかわらず繁殖には影響しなかった遺伝子を淘汰していくことで平均寿命が延びるかもしれない、という仮説です。倫理的に完全にアウトなのでこういう政策が実施される可能性はゼロだと信じたいですが、ディストピアモノのSFの設定に使えるんじゃないでしょうか?


なぜ兄弟よりも自分の子供に対してより大きな利他的行動をするのか?

 兄弟も親子も50%の遺伝子を共有しています。あなたの兄弟、子供そして両親は、あなたの持つ遺伝子のうち半分のコピーを持っているのです。遺伝子の視点に立てばこの三者は同じ価値を持っているはずです。しかし現実では子供に対する利他的行動
が際立っています。
 まず両親については自分よりも年齢が上なため、自分を犠牲にして両親を救っても自分の遺伝子(両親も同じ遺伝子を持っていると仮定します)を後世に伝える確率は低くなります。
 (特に年下)兄弟の場合、遺伝子を後世に伝える可能性は自分と変わらないか自分よりも上です。ではなぜ子供に対する利他的行動の方が顕著なのかといえば、子供は自分の子供であることがはっきりしている(特に自分が母親の場合には100%自分の子供だと確信できます)のに対して、兄弟はそうでないからです。韓流ドラマの設定のようですが、ある日突然両親から実の兄弟でないことを告げられるかもしれません。

  • まとめ

ちょっと専門的な内容も含まれていますが、かなり噛み砕いた説明があるので生命科学を大学で学ばなかった人にもお勧めです。