読書記録 和書

オリンピックシーズンに村上春樹「シドニー!」を読んだ

東京オリンピックはそろそろ閉会ですね。 前々から気になっていた村上春樹さんのシドニーオリンピック観戦記「シドニー!」を読んでみました。 村上春樹さんの新作小説が発売されると、所謂「ハルキスト」と呼ばれる氏のファンが書店に行列を作るなどの熱狂…

“ヨーゼフ・メンゲレの逃亡”とワクチン

精神的に落ち込んだとき、奇妙に惹きつけられるものがある。ノンフィクションやドキュメンタリーである。それも成功した起業家やアスリート、芸術家のそれではなく、非人間的な独裁者や異常な犯罪者、過去の悲惨な事故を扱った類だ。なぜ?と思われるかもし…

ユン・チワン ”ワイルドスワン”

著者の祖母が北洋軍閥のシュエ将軍の妾となってから彼女の一族がたどった運命を描いたノンフィクション。辛亥革命、日中戦争、国共内戦そして毛沢東による大躍進と文化大革命に至るまで中国の動乱に満ちた近代史に翻弄されながらも一族の絆を保ち続けた家族…

 百田尚樹 ”永遠のゼロ”

ひと月以上前にたまたま点けたテレビで百田尚樹氏の特集がやっていて興味を持ったので読んでみました。 件の番組(情熱大陸)で協調されていたように、一つ一つのセンテンスが短く明解でとても読みやすい!というのが第一印象でした。主人公の戦闘機パイロッ…

ウラジミール・ナボコフ ”ロリータ”

「ロリコン」というワードの語源ともなった作品。妻に逃げられたフランス人のハンバートはアメリカに渡り、下宿先の娘である十二歳の少女ロリータに心を奪われていく。(こう書くと妻に逃げられたショックから少女に惹かれたようだけど、ハンバートのガチロ…

ミチオ・カク”2100年の科学ライフ”

未来は既に存在する ひも理論で有名な物理学者ミチオ・カクの一般向け科学書。タイトル通り2100年の世界で実現しているであろうテクノロジーを科学者の立場から予測している。単に科学技術のみならず、未来の社会・経済についての深い考察もしてある。例えば…

野中猛”心の病 回復への道”を読んだ

タイトルからは心の病を抱えた人たちのドキュメントを想像してしまいますが、実はそうではなく、精神医学全体を俯瞰するための雑多なエピソードの集合が本書です。トピックの範囲は精神医学の歴史から著者の臨床経験、世界・日本の精神医学の現状にまで及び…

トマス・ピンチョン"競売ナンバー49の叫び"を読んだ

ラジオDJの夫暮らしている主婦エディパ・マースが突然むかし付き合っていた大富豪ピアス・インヴェラリティの遺産執行人に指名され、遺産の調査を進めていくうちに「トライステロ」という謎の郵便組織の影がちらつき出す…というストーリーです。タイトルが独…

"ニンジャスレイヤー ネオサイタマ炎上1"を読んだ

いわゆるTwitter小説で、相当話題になったので今更な感はありますが読みました。 妻子をニンジャに殺されたサラリーマン、フジキド・ケンジがナラク・ニンジャに憑依されてニンジャスレイヤーとなり復讐のために片っ端からニンジャを殺す話です。それ以上で…

"寄生虫のはなし"

僕が通っている医大の三年次には学生に恐れられている授業が二つある。一つは解剖学Ⅰ。ドSで学生想いの先生方が作成する学生の張ったヤマを完全に外したテストゆえ、テスト開始後すぐにため息が教室中から漏れたりする。そしてもう一つが寄生虫学である。 43…

"現代アートの舞台裏 5カ国6都市をめぐる7日間"

日本の庶民には全力で縁の無い世界の話。本当に面白い。 第一章は華やかなクリスティーズのオークションで幕が上がり、第二章では芸術家ワナビたちの鬱屈感が伝わってくるCalArts(カリフォルニア芸術大学)の伝説の授業が紹介され、その後日本を代表する現…

"放浪の天才数学者エルデシュ"

ポール・エルディシュ(1913-1996)はハンガリー出身の今世紀を代表する天才数学者で、数論や組み合わせ論などの分野で業績を残した。エルデシュは天才数学者という言葉から誰もが想像する通りの変人で、金銭や地位に興味を示さなかった。それどころか生涯で…

"無慈悲な昼食" エベリオ・ロセーロ(Evelio Rosero)

英語のタイトルは"Good Offices"だそうです(日本語でググってもどこにも書いてなかった)。土曜23時からjwaveで放送されている「BOOK BAR」という番組で紹介されてたので読んでみました。「BOOK BAR」は面白くてちょっとマニアックな本を毎週紹介してる番組…

 ベンヤミン”複製技術時代の芸術作品”

「写真などの複製技術の発展にともなって芸術作品のアウラ=オーラ(権威・僕らが芸術に抱く一種の共同幻想)は滅びて行く」というのがこの本の言わんとすることのようです。 写真以前にも模写や版画などの複製技術はありましたが、これらの技術は写真の持つ実…

”利己的な遺伝子”その2

皆が利己的にふるまう殺伐とした社会以外の選択肢は無いのか? リチャード・ドーキンス博士によれば、人間が持つ「意識」は遺伝子からの解放・反逆を可能にする素晴らしいツールです。利己的にふるまうよう指示する遺伝子達の専制支配に反逆することができる…

”利己的な遺伝子”その1

前々から読んでみたかった本です。生命科学系の端くれとして読まなアカンと思ったので思い切って読みました。高校生物の遺伝やDNAの単元が分かっていれば読み進められる本だと思います。この本の中心テーマは、「生物とは利己的な遺伝子が自らの繁栄のために…

岡本太郎「日本の最深部へ」を読んだ

この本は1960年代に岡本太郎が日本各地を回って、かろうじて残っていた土着的な文化を記録したものです。岡本太郎はいわゆる絢爛で美術館的な日本文化を、大陸からの輸入品であって真の日本文化ではないと喝破します。その代わり、技術的には稚拙でも庶民の…

”我々はみな惨事に巻き込まれうる” イアン・マキューアン「土曜日」を読んで考えたこと

土曜日の早朝、不思議な高揚感とともに眼を覚ました脳神経外科医ヘンリー・ペロウンが窓の外に見たものは火を吹きながらロンドン上空を降下していく飛行機だった。ペロウンの脳裏にニューヨーク同時多発テロの光景が鮮明に蘇る。ここからペロウンの波乱に富…

チャールズ・ブコウスキーの「勝手に生きろ!」読みました

今回のエントリにはかなりきわどい表現が含まれるので、そういうのが嫌いな方は読まない方がいいと思います。 「チナスキーさん、なぜ鉄道貨物の操車場を辞めたんですか?」 「ええっと、鉄道には何の未来も感じられなかったからです」 「組合は強いし、医療…