"無慈悲な昼食" エベリオ・ロセーロ(Evelio Rosero)

 英語のタイトルは"Good Offices"だそうです(日本語でググってもどこにも書いてなかった)。土曜23時からjwaveで放送されている「BOOK BAR」という番組で紹介されてたので読んでみました。「BOOK BAR」は面白くてちょっとマニアックな本を毎週紹介してる番組で超おすすめです。

 コロンビアの首都にある教会。この教会に住みこんでアルミダ神父の補佐をしている青年が主人公で、孤児として教会に拾われた過去があるようです。大学に進学させてもらえないことや教会が主催する炊き出しの仕事を任されていることに不満を抱きつつも、そこそこ満足して敬虔な日々を送っているような描写が続きます。しかし、アルミダ神父が資金調達のためにパトロンの実業家(そもそもこの「実業家」、直接そう書いてあるわけではないですがぶっちゃけマフィアだと思います)に会うために代理の司祭にミサを任せて出かけていってから物語は急展開を見せます。

 代理にやって来たマタモーロス神父はカリスマで、ミサのオーディエンスを完全に魅了して熱狂の渦に引きずり込みます。ミサの終了後、厨房の住み込みおばちゃん3人組がマタモーロス神父にどうしても食事を振る舞いたいと言い出し、次第に飲めや歌えの狂乱に発展します。ミサの恍惚とアルコールでタガが完全に外れたタンクレドとおばちゃん3人組は普段から抱いていたアルミダ神父への不満を爆発させていきます。実はこのアルミダ神父、敬虔で温厚な様に見えて信者の女性を食いまくってるヤリチンなうえに、例の実業家から不正な金を受け取って蓄財しているとんだクソ野郎であることが明かされます。マタモーロス神父を触媒に教会中から不満が噴出していく様子はカタラーゼの実験みたいで見ごたえあります。

 夜が深まるにつれて乱痴気騒ぎはさらに加速し、マタモーロス神父のために腕によりをかけて作ったウサギ料理が猫にくすね盗られたことにブチ切れたおばちゃん3人組は、憎しみをこめてアルミダと名付けたこの猫に対して「最終的解決」を宣言します。また教会に住みこんでいるニンフォマニアの秘書は聖なる祭壇で激しくタンクレドを誘惑し始めます。

 物語は翌日の朝のシーンで終わります。前日の狂乱のうち、何が現実で何がアルコールが生み出した幻想なのか全く分からないままなのですが、妙な解放感と清々しさがあるラストです。アメリカのブラックコメディが好きな人に特におすすめの一冊。