デビッド・フィンチャー監督のNetflixドラマ 「マインド・ハンター」

デビッド・フィンチャー監督の「マインド・ハンター」は、FBIの行動科学課所属の特別捜査官2人が主人公のドラマシリーズです。実在のFBI捜査官をモデルにしており、多くの実在するシリアルキラーが登場します。

1970年代、動機が不可解な殺人が増加する中、若手のFBI捜査官ホールデン・フォードは、プロファイリングと呼ばれる新しい捜査方法に興味を持ち、収監中のシリアルキラーと面談して彼らの心の内を探ることを思いつきます。

フォード捜査官の興味から始まったシリアルキラーの面談は、未解決事件の解決に役立つことが明らかになると、上司のビル・テンチ捜査官や、ウェンディー・カー博士も加わってFBIの正式なプロジェクトとして発展していきます。

プロファイリングのために、フォード捜査官は全米各地の刑務所で様々な”有名”シリアルキラーに面会するのですが、その中の一人にポール・ベイトソンという男がいます。彼はバーで知り合ったゲイ男性を殺害した罪で有罪判決を受けますが、そのほかに6人の男性を殺害してニューヨークのハドソン川に遺体を遺棄した疑いがあります。

ベイトソンニューヨーク大学医療センターの放射線技師で、アカデミー賞を受賞した映画「エクソシスト」に出演したことがあります。

悪魔に憑かれた少女が脳の疾患を疑われて病院で血管造影検査を受けるシーンで、放射線技師役でエキストラ出演しています。

 


www.youtube.com

  • 52秒から登場する短髪・髭でケーシーを着用した男性がベイトソン

 


www.youtube.com

  • 血管造影シーンのメイキング

このシーンは、エキストラ俳優でなく、本物の医師、放射線技師(ベイトソン)、看護師が演じているため、非常にリアルに仕上がっています。

約50年前の映画ですが、カテーテルを挿入する際には、今でもこのシーンのように消毒、局所麻酔、穿刺、カテーテルの挿入の順番で行います(造影CTやMRIが発達した現在、危険を伴う頸動脈直接穿刺による血管造影はしないですが)。

優秀で人当たりのいい大学病院の放射線技師が殺人者に変貌したのか、殺人者が良き社会人に擬態していたのかは本人にしか分からないですが、怪物とそれ以外の境界というのは我々が思っているよりも曖昧なものかもしれないですね・・・。

 


www.youtube.com

 

「マインド・ハンター」は現在第2シーズンまで公開されていますが、第3シーズンは未定となっています。イカゲームの監督もファンを公言している*1本作ですが、是非第3シーズンを期待したいところです。

 

 

 

 

 

 

外勤のグルメ #1 伊藤和四五郎商店グランスタ東京店

f:id:kajimasanori:20210813124125j:plain

 

www.gransta.jp

プリプリした鶏肉を予想して食べたら、意外に噛み応えがあって、最初は「あれっ」と思ったが、噛むと肉と出汁の味がじわっと染み出して来て非常に良い。小皿に乗った梅干も、酸味の少ないフルーティな味で、甘い親子丼によく合う。普段は弁当なんかに入っている梅干は残すけれども、この梅干は全て食べてしまった。

Wi-fiが2階から降り注ぐ

事情があって4月から11年ぶりに実家暮らしをしている。実家は3階建で、3階にWi-fiの親機があるので、1階の自室まではWi-fiの電波がほとんど届かない。一人暮らしの時に契約したWimaxルーターを惰性で使い続けていたのだが、Wi-fiの中継機を使って見ることを思い立って試してみたら・・・

 

f:id:kajimasanori:20210808153539j:plain

動画はおろかTwitterの画像の読み込みにさえ時間がかかってイライラする速度から

 

f:id:kajimasanori:20210810193008j:plain

動画視聴が最低限可能な速度にまでアップ!

 

これでWimaxを解約して節約できる。

 

今回使用した中継機はエレコム製のコレ↓

 正直言ってどこの製品でもあまり変わらないと思うが、一つだけ確認しておきたいのが、接続にあたって親機のWPSボタンと中継機のWPSボタンを押すだけで接続できるタイプと、パソコンなどで設定したりする面倒臭い1ステップが必要なものがあるということ。このエレコムの製品は当然前者で、非常に簡単に設定できた。

また、メッシュWi-fiというものもあるみたいだが、有線LANで接続できるか分からなかったのと、価格が高かったので今回は見送らせていただいた。

 

 

Netflix 「ブラッドライン」は機能不全家族のアダルトチルドレン祭り

f:id:kajimasanori:20210809125131j:plainDayron VillaverdeによるPixabayからの画像

 

Netflix ドラマ「ブラッドライン」、なんとなく視聴を始めたら、気がついた時にはどハマりして、一気に最終話まで見てしまった。

フロリダキーズという場所がアメリカにあります。フロリダ半島の南端に、約300kmに渡って連なる島々で、本土から一番遠い西の端っこにあるキーウエスト島はヘミングウェイの家があることでも有名です。本土から島々を結ぶオーバーシーズハイウェイ(有名なセブンマイルズブリッジもこの道路の一部)と呼ばれる国道があり、風光明媚な観光地として世界的に有名です。 

このフロリダキーズでこぢんまりとしたリゾートホテルを営む、地元の名家・レイバーン家が、家族病理的な闇によって破滅に突き進む、というのが「ブラッドライン」のあらすじです。

ホテルの45周年記念パーティーに出席するため、長男ダニーがマイアミから戻って来た。パーティーが終わった後もダニーは地元に残ることになり、家族は困惑しつつも受け入れることにするところからストーリーが始まる。

レイバーン家はホテルを経営する夫婦と、ダニー、ジョン、メグ、ケヴィンの4人きょうだい(さらに一人サラという女の子がいるが子どもの時に事故死している)だ。

ダニーは一家の鼻つまみもので、唯一地元を離れてマイアミで生活していたが、経営していたレストランの経営に失敗した後は、悪い仲間と付き合うようになって逮捕歴もある。甘いマスクの痩躯で、人当たりが良さそうに見えるが、実のところは周りの人を都合よく操作しようとするサイコパス・タイプ。

ジョンは、何度も表彰された優秀な刑事で、高校生の頃から付き合っていた女性と結婚して二児の父となった。責任感が強く性格的に安定していているので、家族や周囲の人から頼られ、面倒を見るタイプで、外見的にも長身でがっちりした体型。

メグは弁護士で、学業のために一度地元を離れたが、ファミリービジネスの顧問弁護士をするために卒業後は実家に戻ってきた。性格的には学業優秀な地味な「良い子」タイプで、ジョンの部下の刑事と付き合っている。

ケヴィンは地元でヨットの修理会社を営んでいるが、会社は破産寸前で妻との関係も破綻寸前。何かトラブルがあると兄のジョンに助けてもらおうとする自立心の無さ、酒や薬物に溺れる弱さを抱えている。

最初は、鼻つまみもののダニーを、理解ある家族が家に泊めてあげたり、ホテルでの仕事を世話してあげたりして、暖かく迎え入れようと努力するストーリーだと思わせておいて、話が進むにつれて、過去に悲劇的な出来事があり、ダニーをスケープゴートにしてしまった家族の罪悪感と、その感情を利用するダニーという構図が浮かび上がってくる。

夫婦は楽園のようなホテルを経営して経済的に成功し、子どもたちも弁護士や刑事などのステータスの高い職業について家庭もあるレイバーン一家は地元では名家とみなされているが、実のところは機能不全家族で、子供たちはアダルトチルドレンだ。

以下にアダルトチルドレンの類型を引用する。

ヒーロー(hero / 英雄)

 ある分野において家族の外、世間に評価をされる子どもで、その子のさらなる活躍に家族が期待して、それに熱中するあまり、両親の冷たい関係が一時的に良くなったりします。そうすると子どものほうでも、その期待に応えつづければならないので、ますますがんばってしまう子ができあがります。
 こういう子が世間に出て、何らかの挫折にあったときに、問題が発症することが多くあります。

スケープゴート(scapegoat / いけにえ)
 ヒーローの裏返しにあるのが、スケープゴートです。
 一家の中のダメをひとえに背負いこまされているような子です。
 いっけんそのようには見えない非行型のスケープゴートもあります。
 この子さえいなければ、すべては丸く収まるのではないか、との幻想を他の家族のメンバーに抱かせることによって、その家族の真の崩壊を防いでいます。
 家族の感情のごみ箱ともいえることでしょう。

ロスト・ワン(lost one / いない子)
 けっして目立たないことによって、存在し続ける子です。「壁のシミ」のような存在です。
 とにかく静かで、ふだんはほとんど忘れ去られています。家族がいっしょに何かやろうというときにいないのですが、いなくなったことにも気づかれないような子です。
 本人はこうした形で家族内の人間関係を離れ、自分の心が傷つくことを免れようとしています。

プラケーター(placater / 慰め役)
 一家の中でいつも暗い顔をしている者、たとえば夫の飲酒でため息をついている母親や、妻の狂奔に疲れ果てている父親を、有言無言にいつもなぐさめているような子です。
 家族の中の小さなカウンセラーともいうことができるでしょう。

クラン(clown / 道化師)
 慰め訳の亜種として存在する子です。たとえば親たちの間にいさかいが始まり、家族に緊張が走るような時、突然とんちんかんな質問をして笑わせたり、歌い出したり踊り出したりする子です。
 こういう子はふだんから表面的には非常にかわいがられていて、ペット的な存在です。本人もかわいがられることを楽しんでいるようなのですが、道化師の仮面の下にはさびしい素顔がひそんでいます。

イネイブラー(enabler / 支え役)
 他人の世話を焼いてばかりいることで、自分の問題から逃げ回っている子です。偽親とも呼ばれ、第一子がこの役につくことが多いですが、長男がヒーローやスケープゴートになってしまうと、その下の長女などがこの役につくこともよくあります。
 母親に代わって幼い弟妹の面倒をみたり、ダメな父親にかわって母親のケアをさせられることで情緒的近親姦になっている場合もあります。
 こういう子は成人してからもイネイブラーになることが多いです。


www.just.or.jp

ダニーが「スケープゴート」なのは間違いないです。ジョンは「ヒーロー」であり、本来長男であるダニーの役割であった「イネイブラー」の役割も果たしていると考えられます。メグはある時は「プラケーター」であり、ある時は「ロスト・ワン」、ケヴィンは「クラン」でしょうか。

 

以下ネタバレを含みます。

続きを読む

首都高のパーキングエリア

首都高4号線の代々木パーキングエリアは大都会のエアポケット的な穴場だ。

 

f:id:kajimasanori:20200717093141j:plain

 

明治神宮の緑を見ながらドトールのアイスカフェオレを飲む。

 

f:id:kajimasanori:20200717093123j:plain

 

ただし、合流車線が短い上に見通しが悪い鬼畜仕様なので、本線に戻る時には、一旦停止して後ろを振り返って後続車がいないことを確認した上でアクセルをベタ踏みする必要がある。

オリンピックシーズンに村上春樹「シドニー!」を読んだ

f:id:kajimasanori:20210811164103j:plain

東京オリンピックはそろそろ閉会ですね。

前々から気になっていた村上春樹さんのシドニーオリンピック観戦記「シドニー!」を読んでみました。

村上春樹さんの新作小説が発売されると、所謂「ハルキスト」と呼ばれる氏のファンが書店に行列を作るなどの熱狂がTVなどで報道されるのが恒例となった感があります。

村上春樹は小説だけでなく、旅行記から日常系までエッセイも多数発表しているのですが、小説に負けず劣らず良いです。というか、僕はエッセイの方が好みです。村上春樹の小説は孤独な後期青年が試練をくぐり抜けるシリアスなものが多く、ユーモアの要素はほぼゼロですが、エッセイの方は、面白い親戚のおじさんの体験談を聞いているような親密感や脱力感があります。

シドニー!」は、オリンピック観戦記ですが、個々の競技に関する記録はほとんどないです。例外は高橋尚子が金メダルを取った女子マラソンと、陸上の400mで金メダルを取ったアボリジニのキャシー・フリーマンくらいです。

大部分を占めるのは、開会式の「文化祭的な」しょぼさ、スポンサーのコカコーラ社が会場の荷物チェックでペプシの持ち込みを阻止するように圧力をかけたこと、ホテルでMacの盗難にあったこと、果てはオリンピックに飽きて博物館に行ってオーストラリアのヘビに関するCD-ROMを借りて見るなど、などの個人的な体験談です。

開会式の問題、商業主義、膨張する予算など今となっては明らかなオリンピックの負の側面ですが、それを20年以上前に指摘していた村上氏の観察眼・解像度の高さはさすがです。

開催都市をアテネに固定して、質素なオリンピックに回帰すべしという、村上さんの提言は至極まっとうに思えます。

メンヘラは今すぐランニング(じゃなくてもいいけどとにかく激しい運動)しなさい

「一度、父から聞かされたことがある。スポ ーツを必死にやってなかったら、どうなっていたかわからない(※”父”は一時期うつ病に苦しめられていた)。スポーツをするのは頭をぼうっとさせるため、なにも考えないようにするためだ。つまり親父は成功したのだ。僕は納得した。親父は人間の条件について真の疑問を感じることなく、人生を全うすることに成功した」

—『プラットフォーム (河出文庫)』ミシェル・ウエルベック

 

初期研修医だったころ、週に2回、必ずスポーツジムのプールに行っていた。”自己研鑽(遅くまで病棟に残って完璧なカルテを仕上げること)”や勉強、飲み会など、働き方改革前夜の研修医に課せられた義務を時に疎かにしてもプールに行った。ビート板とプルブイを使って1000mアップをした後、1000mを16分で泳ぐ。本格的に水泳をしていた人からすると大したことのないメニューだろうが、落ちこぼれの水泳部員だった僕にしてみれば”限界まで追い込む”メニューだった。大学の部活と違って、マネージャーもいないので、いま何往復めを泳いでいるのか自分で覚えておくしか無い。プールサイドにある巨大なストップウォッチを見て、次のスタートのタイミングを計るのも自分一人でやるしか無い。心の中で「今5本めで、次のスタートは下(秒針が30秒)から」などと繰り返しながら全力で泳いでいると、雑念は溶けてなくなる。スポーツジムへ向かう時には、病棟で上級医に叱責されたこと、同期の研修医への嫉妬、将来への不安、当直の予定など不愉快な想念で熱を持っていた頭の中が、プールから出て家路に着くときには不思議に凪いでいる。まさに、冒頭のウェルベック「頭はぼうっとして何も考えずにすむ」だ。

当時はあまり意識していなかったが、今思い返してみると、研修医としてのストレスに対する防衛機制として泳いでいたのは明らかだ。

「脳を鍛えるには運動しかない!最新科学でわかった脳細胞の増やし方」を読んで、当時狂ったように泳いでいた理由が分かった。

タイトルから、今流行りの、筋トレして自信に満ち溢れたアルファな雄/雌になって”サクセス”を手に入れろ的な内容を予想するのは早計だ。この本を一言で要約するならむしろ、「メンヘラが生き残るには運動をして脳内にモノアミンを補充しなければならない」だ。

運動によってモノアミン(セロトニンノルアドレナリンなど)やBNDF(脳由来神経栄養因子)、IGF-1(インスリン様成長因子)などが分泌されると、即座に不安や恐怖といった感情が緩和される。さらに、運動の習慣化は神経回路自体を変化させることにより、不安や恐怖を感じにくくしてうつ病を予防する。しかもその効果はSSRIベンゾジアゼピン抗不安薬に肩を並べるという。たたしここでいう”運動”とは、ウォーキングなどの軽い運動ではなく、最大心拍数の80%で行われる有酸素運動である必要がある。本書には、豊富な神経科学的なエビデンスと、著者が精神科医として経験した実例がバランスよく含まれていて説得力がある。

自分語りに戻らせてもらうと、初期研修を終了して内科の後期研修医となったのだが、とにかく多忙を極めることになる。朝7時から深夜までノンストップの業務をこなして家に帰っても、24時間オンコールのため、患者急変などがあれば深夜でも呼び出されるので気の休まる暇などなく、週に2回ペースの当直と病棟当番があり、完全な休日は月に3回あればいい方という激務で、次第にプールからは足が遠のいてしまった。そんな生活が2年ほど続いた頃、細かい経過は省略するが、うつ病になり休職をせざるを得ない状況になった。

幸いにして現在は復職したが、復職する気力を取り戻すことができたのも、プール通いを再開したからだと思っている。もちろん、抗うつ薬のおかげで運動を再開できるまで回復できたという説明も可能だと思うし、本書も抗うつ薬の有用性を否定しているわけではない。

いちメンヘラとして仲間に伝えたいのは、週に最低2回は激しい運動(最大心拍数の80%)を30分以上して身を守ってほしい、それが多忙でできない環境からは脱出した方がいいよ、ということだ。