オリンピックシーズンに村上春樹「シドニー!」を読んだ

f:id:kajimasanori:20210811164103j:plain

東京オリンピックはそろそろ閉会ですね。

前々から気になっていた村上春樹さんのシドニーオリンピック観戦記「シドニー!」を読んでみました。

村上春樹さんの新作小説が発売されると、所謂「ハルキスト」と呼ばれる氏のファンが書店に行列を作るなどの熱狂がTVなどで報道されるのが恒例となった感があります。

村上春樹は小説だけでなく、旅行記から日常系までエッセイも多数発表しているのですが、小説に負けず劣らず良いです。というか、僕はエッセイの方が好みです。村上春樹の小説は孤独な後期青年が試練をくぐり抜けるシリアスなものが多く、ユーモアの要素はほぼゼロですが、エッセイの方は、面白い親戚のおじさんの体験談を聞いているような親密感や脱力感があります。

シドニー!」は、オリンピック観戦記ですが、個々の競技に関する記録はほとんどないです。例外は高橋尚子が金メダルを取った女子マラソンと、陸上の400mで金メダルを取ったアボリジニのキャシー・フリーマンくらいです。

大部分を占めるのは、開会式の「文化祭的な」しょぼさ、スポンサーのコカコーラ社が会場の荷物チェックでペプシの持ち込みを阻止するように圧力をかけたこと、ホテルでMacの盗難にあったこと、果てはオリンピックに飽きて博物館に行ってオーストラリアのヘビに関するCD-ROMを借りて見るなど、などの個人的な体験談です。

開会式の問題、商業主義、膨張する予算など今となっては明らかなオリンピックの負の側面ですが、それを20年以上前に指摘していた村上氏の観察眼・解像度の高さはさすがです。

開催都市をアテネに固定して、質素なオリンピックに回帰すべしという、村上さんの提言は至極まっとうに思えます。