ミチオ・カク”2100年の科学ライフ”

  • 未来は既に存在する

ひも理論で有名な物理学者ミチオ・カクの一般向け科学書。タイトル通り2100年の世界で実現しているであろうテクノロジーを科学者の立場から予測している。単に科学技術のみならず、未来の社会・経済についての深い考察もしてある。

例えば、ムーアの法則(18か月ごとに半導体の性能が倍になるという法則で、インテルの創業者ゴードン・ムーアが1965年に提唱した)が成り立たなくなる時期を2020年頃と予測している。そうなればPCやスマホの性能向上が見込めなくなり、人々が電子機器を買い替えなくなるので深刻な不況が発生する。

既に存在するテクノロジーから将来を科学的に推測するという営みについて、「未来はすでに存在する。ただ均等に散らばってないだけだ」というウィリアム・ギブスンの言葉で説明しているのが超カッコいい。

  • ヤバい、凄い、ミチオ・カクの科学への楽観主義

今日、われわれは自然のふるまいの振り付けができるようになり、ときには自然の法則をいじれるようになった。だが2100年になるころには、自然の支配者へと移行しているだろう (p20)

公害・大規模な事故等、科学の負の側面が強調されがちな現代日本に暮らすぼくの目には、この強烈な科学への信頼(というかもはや信奉)はかなり新鮮に映る。ちなみにこの引用から2ページ後には「混乱と愚かしさの力に屈しない限り、惑星規模の文明への移行は、だれにも制御できない仮借なき歴史とテクノロジーの力がもたらす最終的な結果として、必ず起きるのである」と断言している。

  • 医者の卵の視点で

医学生なので医師という職業の将来について考えてみた。トイレや服に埋め込まれたチップが呼気や排泄物を常時モニタリングして病気を未然に予防したり(毎日無意識的に健康診断を受けているようなイメージか)、コンピュータープログラムが病気を診断できるようになったりする。将来的には現在の医師の業務のかなりの部分が自動化されるのは確実な中、人間の医師に最後まで残されるかもしれない領域はどこだろう?言い換えれば、医者がこの先生きのこるには?

それは肉眼の情報を武器にできる分野だろうと思う。なぜならコンピューターは対象を立体的に把握したりするパターン認識を最も苦手とするからである。例えば検査値を見て診断を下して治療方針を決定するような内科的な業務が自動化される日はもうすぐそこまで来ているが、腫瘍っぽい部分を目視して切り取る外科医的な業務が自動化されるのは相当先の話になるのではないか…等と愚考してみた。