イラク戦争の映画"ハート・ロッカー"を観た

 ちょっと後暗いけど戦争映画が好きである。しかも現代戦に題材をとった映画が特に。「地獄の黙示録」のデジタルリマスター版が公開された当時、高校生だった僕はひとりで新宿の小汚い映画館に出かけて行って、おっさんだらけの客席でキルゴア大佐のあの有名なシーンが大スクリーンに映し出されるのを目に焼き付けて満足していた。そのくらい好きである。

 「ハート・ロッカー(The Hurt Locker)」はイスラムゲリラお手製の仕掛け爆弾(IED)処理チームの隊長としてイラクに赴任したウィリアム・ジェームズ二等軍曹が、二人の部下とともに一年の任期をどうにかして生き残るという単純明快なお話。

 爆弾処理班と言っても、いわゆる「時限爆弾に繋がれた赤と青のワイヤーさあどっちを切る?」系のヤツではないです。最前線で銃火の脅威に曝されながら爆弾を処理して後続の友軍の進撃を可能にするのがウィリアムたち戦闘工兵の任務です。なので爆弾を処理するのはウィリアムだけで、チームにいる残りの二人(サンボーンとエルドリッジ)の任務はウィリアムがIEDの処理に集中できるように彼を護衛すること。このウィリアムというのが爆弾処理を生きがいにしているタイプのアドレナリン中毒者で、危険を顧みずに独断でどんどんIED処理にのめり込んで部下を振り回し深刻な対立を生み出していく。

 息もつけないほど緊迫したシーンが切り替わるごとに「アメリカ帰還まであと○○日」というテロップが出てくるので、ウィリアムがイラクを後にしてアメリカに残してきた家族の元に帰って心底ホッとするわけです。でもアメリカに帰ったウィリアムはスーパーマーケットの棚一面に並んだ色んなブランドの色んな味のシリアル*1を見て驚く、妻に戦争の必要性を説いても薄い反応しか返ってこない、オレの望んでた生活はこんなんじゃないと思いだす、そして再び兵士としてイラクに戻っていく。

 この映画を観たあと、イラクに従軍して兵士の自殺予防やPTSD治療にあたった臨床心理士が自殺したというニュースを読んだ。自殺した臨床心理士の戦友がインタビューに答えてこんなことを言っている

He was not afraid of death, I think he was just afraid that he wasn’t going to mean as much as he did in the Army for the rest of his life.(彼は死を恐れてなかった。イラクでしたような意義ある仕事をもうこの先の人生でできないかもしれないということを怖がっていたんだと思う)

戦争が与えてくれる使命感とか正義感ってかなり強くて、一度それを味わってしまうともはや以前の日常に戻れないのかもしれない…。

*1:サシャ・バロン・コーエンのコメディ映画「ボラット」のメイキングにもカザフスタンから来たボラットが、アメリカのスーパーに並んだバターの種類の多さに驚愕するシーンがあった気が…