The immortal life of Henrietta Lacks (かなり前に)読みました その1

 これも新宿の某書店の洋書平積みコーナーで買ったものです。一応生命科学系の学生なので購入したんですが、色々と考えさせられる内容でした。
 このノンフィクションはHenrietta Lacksというアフリカ系の女性の話ですが、彼女が何事かを成し遂げたわけでなく、彼女の「細胞」が生命科学の歴史に燦然と輝きづける業績を残したんです。どういうことかというと、子宮頚癌に罹ったHenriettaさんがJohns Hopkins病院で治療を受けるんですが、その時に病院側が勝手に彼女の癌細胞を研究目的で採取してしまったわけです。1950年代の前半の話で「インフォームドコンセント」なんていう概念はまだ生まれてもいない頃の話です。さらに、このHenriettaさんが入院したのは低所得者に無料で治療を提供するための病棟(public ward)で、「無料で治療を提供する引き換えにちょっとくらい研究に協力してもらうのは当然」という病院側の意識もあったわけです。人間の細胞は培養が難しく、Henrietta Lacksの癌細胞(HeLa細胞と呼ばれ、今でも使われています)は永久に分裂させることができた初めての細胞で、当時大きなセンセーションを巻き起こしました。
 1951年は世界的にポリオが大流行した年で、それを受けて1952年にUniversity of PittsburghのJonas Salkが世界初のポリオワクチンを発表した、と発表しました。しかし、このポリオワクチンの安全性と有効性を確認するためにはヒトの細胞を使った実験が不可欠です。そこでHeLa細胞に白羽の矢が立ったわけです。この他にもウイルス研究の黎明期にはHeLa細胞が不可欠でしたし、ヒト細胞の染色体数が46本であるということもHeLa細胞のおかげで明らかになったのです。さらにMicrobiological Associatesという企業がHeLa細胞の商業生産に乗り出し、製薬会社や化粧品会社がHeLa細胞を安全検査に使うようになったのです。
 以上がHeLa細胞にまつわる輝かしいエピソードです。しかし陽のあたる部分が大きければ影も大きいのが世の常で、HeLa細胞は医療倫理的に関する様々な問題にリンクするのです。
 長くなりそうなのでエントリを分割します。