The immortal life of Henrietta Lacks (かなり前に)読みました その2

 一個前のエントリではHeLa細胞の正の面を紹介したわけですが、このエントリでは負の面を紹介します。
 一つ目の問題点は「インフォームドコンセント」に関する問題です。この言葉は今や一般にも浸透していて、「治療を受ける際に医師からきちんと方針の説明を受ける権利」という感じで使われていると思いますが、ここでは違った意味合いで使います。どんな意味かといいますと、「人体実験を行う際には被験者の同意を得なければならない」ということです。えっ!と思う方も多いでしょう、僕もびっくりしました。「人体実験を行う際には被験者の同意を得なければならない」ことが初めて明文化されたのはニュルンベルグ綱領においてでした。第二次大戦におけるドイツの戦争犯罪を裁いたニュルンベルグ裁判では人体実験を行った罪で7人のドイツ人医師に死刑が言い渡されました。この裁判の過程で発表されたのが10カ条からなるニュルンベルグ綱領です。しかしニュルンベルグ綱領には法的拘束力がなく、1950年代の医師たちは知りませんでした(だって学校で習っていないもん)。
 「インフォームドコンセント」という言葉が初めて使われたのは1957年の民事裁判においてです(もちろんアメリカの話です。この本はアメリカの本なので基本的にすべてアメリカで起きた出来事だと思って読んでください)。麻酔で半身麻痺になった患者が、麻酔の危険性を事前に医師から説明されなかったとして提訴したケースで、裁判所は患者側の主張を認めました。
 1950年代には化学兵器やレントゲンの人体への影響を調べるために受刑者を同意なしで人体実験に使うことは普通に行われていました。また貧しいアフリカ系の人たちがそういった研究の対象にされることも多く、「night doctor」という民間伝承が黒人たちの間には残っています。これは黒人を誘拐して人体実験をする医者がいるという都市伝説で、奴隷の逃亡を防ぐために白人の農場主たちが作った法螺話が元になっていますが、実際それに近い事実もあったようです。
 まだ続きます…