PCゲームと意思決定の科学

ちょっと面白いなと思う記事がScientific American のオンライン版に出ていたので紹介します。

  • そもそもScientific Americanとは何か?

 アメリカの一般向け科学雑誌で、文系の大卒の人でも理解できるように書かれています。アメリカでは理系の社会的地位が日本よりもはるかに高いので、(大卒の)文系のヒトに求められる科学的リテラシーも日本よりも高いようです。以前在籍していた大学のゼミの教授いわく、最近では文系の専攻でも分子生物学が必修のところが多いそうです。というわけでScientific Americanはかなりメジャーな雑誌のようです(以前に何かの文章で読みましたが、弁護士事務所などに行くとScientific Americanがこれ見よがしに置いてあって、科学的リテラシーのアピールに使われているそうです)。

  • PCゲームとスキル獲得の科学

 今回紹介するのは、「How a Computer Game is Reinventing the Science of Expertise」という記事で、PCゲームのスキル獲得を研究することで一般的な技能の獲得がどのような過程で行われるのかを明らかにできるかもしれないという内容です。
 記事で取り上げられているのはStarCraft 2というPCゲームで、非常に複雑であることと、ゲームの過程を全て記録する機能があるために研究対象に選ばれました。
 このゲームは簡単に言うと、架空の種族の国家を率いて戦争に勝利するゲームで、二人のプレイヤーがオンライン対戦します。戦闘だけでなく国家の運営(例えば天然資源を採掘したり兵器を開発したりする)もプレイヤーが行うため非常に複雑です。さらに、このゲームは囲碁や将棋等のターン制のゲームではなくリアルタイムで進行するため、思考の瞬発力も求められます。
 PCゲームの研究というと、「ゲーム脳」に代表されるようなゲームが青少年の精神に与える悪影響の研究が主でしたが、最近ではゲームがもたらす良い影響も明らかにされつつあります。

Recent experiments on computer games are beginning to suggest that players develop skills that could be useful in other contexts—skills that might allow those individuals to cope better with certain types of information overload.

 上記の引用を簡単に訳すと、PCゲームをプレイすることによって、他の分野にも応用できるスキル(例えば情報過多に対処する能力)を養成できるかもしれない、ということです。例えば、チェスのプレイヤーはゲームに現れるチェスの駒の配列を記憶する能力は一般人よりも優れていますが、完全にランダムに配列された(ゲームには戦略上絶対に現れない)駒の配列を記憶する能力では一般人と変わらないことが研究で示されています。このようにたいていのスキルはそのものだけに有効なスキルで応用が利かないわけですが、PCゲームではそうではないかもしれないらしいのです。ただし、そうではないという研究もあるので注意が必要です。

 この記事で驚くのがアメリカのPCゲーム事情です。このStarCraft 2には世界大会があり賞金が5万ドル、さらにプロのStarCraftプレーヤーがいて、驚くなかれ、コーチや練習スケジュールまであるチームに所属しているそうです。お年寄りでも幼児でもできるwiiのゲームと、現実世界並みに複雑でプレイに膨大な知識と能力が求められる洋ゲーはもはや別物と考えるべきでしょうね。