ついに出た メンヘラビッチが躍動するドラマ ”ホームランド”

 テレビドラマのキャラクターに感じる親しみは現実の友人に感じるものと変わらない、という研究についての記事を昔見たことがあります。映画と違って時間数が長い、1クール=3ヶ月間の時間を共にする、などの理由があるからだと思います。それゆえにドラマのキャラクターの設定というのはストーリー以上に重要なのではないでしょうか?先日最終話が記録的な視聴率を記録した「半沢直樹」も、半沢直樹はじめ大和田専務や黒崎監査官などの魅力的なキャラクターが多かったと思います。

 CIAの諜報部員キャリー・マティソンを中心にCIAの対テロ作戦が描かれる本作「ホームランド」はゴールデングローブ賞を受賞したアメリカのドラマで、現在日本では第2シーズンまでレンタルができます。アメリカでは今秋から第3シーズンが開始になるようです。

 20世紀フォックスはキャリーを「幸薄女」と銘打ってこのドラマをPRしてますが、まぁなんというか完全にメンヘラビッチ以外の何物でもない。北欧系の厳しい顔立ちと大柄な印象を受けるキャリーは一見頼りがいのある姐御肌の諜報部員に見えるのですが、徐々にメッキがはがれていきます。許可なく盗聴器を仕掛けて監視していたのがばれて(包容力があってメンヘラに好かれそうな)上司に懲戒を言い渡されそうになると、何を思ったか体を使って見逃してもらおうとする(もちろん上司はまともな人なのでドン引きして拒絶する訳ですが…)、監視対象者(ニコラス・ブロディ:7年間イスラムテロリストの捕虜になっていた海兵隊員で、キャリーはブロディがイスラムテロリストに寝返ったのではないかと疑っている)と寝て情報を得るつもりが気付いたら完全に惚れ込んで身動きできなくなる等の見上げたドビッチぶりを発揮。

 「メンヘラ」といっても、「病み期なう」だの「もぅヤダ…疲れたょ」だのといったツイートでヒトのTLを汚しては気を引こうとするタイプのファッションメンヘラではなく、深刻な躁鬱病と闘っていてしかもそのことを職場であるCIAには黙っているというガチな設定。躁鬱病がCIAにばれて解雇される半狂乱のシーンや、ブロディの家の前で「世界がもうすぐ終わるのよ!!」と喚きながら警官に連行されるシーンはちょっと真に迫りすぎていて怖いくらい。

 それでもキャリーが憎めないのはとにかく責任感が強くてまっすぐな所。ブロディから話があるから家に行きたいと電話で言われたキャリーは、いそいそとナイトドレスみたいな服に着替えて化粧をばっちりして、ムーディーなジャズを流して、ワインを開けてブロディが来るのを待つんですが、やって来たブロディは玄関口で「もう僕に関わらないでほしい」と言い放って去っていく…その後キャリーが傷心のまま用意してあった二人分のワインをシンクに流すシーンでは思わずキャリーを抱きしめてあげたくなるので不思議です。周りの人に依存して生きていても仕事のことになると素晴らしいパフォーマンスを発揮するキャリーの姿は、不完全な僕らが社会と付き合う一つの道を示してくれているような気もします。

 もちろんキャリーのキャラ造形だけでなく、映画のような重厚な映像や、緊迫感があって細かい感情描写が光るストーリーにも引き込まれる「ホームランド」、絶対お勧めです。