"Data journalism(データジャーナリズム)"とは…?

 ツイッターを眺めていたらたまたまエレクトリカル・ジャパンという素晴らしいサイトを発見しました。1893年から現在までに日本で建設された発電所が、時系列を追って地図の上にどんどん表示されていくというサイトです。地理の時間で使った地図帳のインタラクティブバージョンとでも言えばいいのでしょうか?震災後に突然降ってわいたよう(新しい発電所が建設する度に、その出力に応じた大きさを持つマークが上から文字通り降ってきます)に大量の太陽光発電所が日本全国に広がっていくのは圧巻で、百聞は一見に如かず地で行っています。

 興味がわいたので色々と調べてみたところ、こういう形で大量のデータをプレゼンするやり方を"data journalism(データジャーナリズム)"と言い、2010年あたりから欧米で急速に発展している分野のようです。その背景として、ブログやSNSで個人が情報を発信する機会が飛躍的に増え、従来型のメディアはもはや以前のように「誰よりも早く情報を伝える」だけでは存在が危うくなっていることが挙げられます。災害や事件等の大きなニュースをTwitterで知ったという経験は誰にでもあると思います。そこで従来型のメディアが生き残るために必要なのが、膨大なデータを分析してパッと見では分からないストーリーを提示する戦略です。この戦略の手段として最適なのがデータジャーナリズムという訳です。

 アメリカには先進的なデータジャーナリズムの事例がたくさんあります。例えばラスヴェガス・サン紙のサイトではラスヴェガスの医療ミスについての特設ページがあり、どの病院で平均以上の医療ミスが発生しているかが一目で分かるようになっています(http://www.lasvegassun.com/hospital-care/surgical-injuries-interactive/)。その他、MRSAや偽膜性大腸炎といった院内感染がどのように広がっていったかを地図上に表示するコンテンツもあります(http://www.lasvegassun.com/hospital-care/infections-interactive/)。

 さらに過激なものではテキサス・トリビューン紙の「Government Employee Salaries」というコンテンツで、これは何とテキサス州の全公務員の実名と所属、年収を掲載しています。実名での検索も可能で、名前さえ分かっていればその人がどの部署に所属して年間に給料をいくらもらっているかということが誰でも分かってしまう訳です。

 下に示した表は「Government Employee Salaries」からの抜粋で、テキサスの公務員の給与ランキング上位25名の実名と所属、ポストがあられもない姿を晒しています。やはりアメリカ、州立大学の(多分アメフトかバスケの)ヘッドコーチがランキング上位を独占してます。

こういう方向が日本で果たして可能なのか?また日本の社会にふさわしいのかは分かりませんが、何らかの形でデータジャーナリズムを活用していく必要はあると思います。下のリンクで紹介した"Data Journalism Handbook"という本は欧米の大御所が集まって作った良書らしいです。僕も読み始めたばかりですが…

その車離れは真実か?

国交省幹線旅客流動調査というのが偶然twitterで流れてきて面白かったのでまとめてみた。
ちなみに、幹線旅客流動とは都道府県をまたぐ移動で、かつ通勤・通学目的以外の移動をいう。たとえば神奈川のベッドタウンから東京の職場に通学するとか、都内に住んでいる人がスカイツリーに遊びに行くといった移動はカウントされない。

-まとめ

自家用車75%、鉄道18%、航空機5%。
300km未満の移動では自家用車が8割以上を占めて圧倒的、300〜500kmで自家用車と鉄道が拮抗、500〜700kmでは鉄道が7割で自家用車と航空機が15%ずつ。700〜1000kmでは航空機と鉄道が半々、それ以上だと航空機が圧倒的。

予想以上に日本が自家用車に依存していることがわかってびっくり。車離れ車離れといいつつ一貫して自動車の割合が増加している。なんと2005年と2010年の間で自動車のシェアが7ポイントも上昇している。
さらに言えば、2010年から5年後の次回調査までに開通する主な高速道路はメジャーなものだけで、
道東自動車道(全線開通予定)
常磐自動車道(全線開通予定)
首都圏中央連絡自動車道(ほぼ全線開通する予定)
東名高速道路(御殿場-豊田東)
舞鶴若狭自動車道(全線開通予定)
東九州自動車道(ほぼ全線開通する予定)

などがあり、その他にも地方と地方を結ぶ高速道路やバイパスが山のように開通する予定(http://ja.wikipedia.org/wiki/2015%E5%B9%B4%E3%81%AE%E4%BA%A4%E9%80%9A)。

一方鉄道の新規開業は、
九州新幹線の全線開業(2011年)
北陸新幹線の長野-金沢(2014年)
北海道新幹線新青森-函館(2015年)

のみ。
次回(2015年)調査で自家用車のシェアがさらに上昇するのは確実と思われる。

フランス、イギリス、アメリカのデータも載ってる。フランスは日本に比べて長距離での自家用車移動が多く航空機移動が少ないイメージ。イギリスは全体的に移動距離が短めで航空機移動が多い。アメリカは800〜1600kmという超長距離においても自家用車移動が半分もある。
日本は鉄道利用が桁はずれて多いと思ってたけど、そんなこともなく300km以下の移動ではむしろイギリス、フランスよりも少ない。


-車離れ?
都道府県をまたぐ幹線輸送では自動車のシェアは漸増傾向にあり、「車離れ」には疑問符が付く。今回のデータからは読み取ることはできないが、もし「車離れ」現象が起こっているとすれば、東京や大阪といった大都市圏内間輸送に限ったものであると考えられる。
「車離れ」は当然のこととしてメディアなどで騒がれているが、もしそれがデータを伴うことなくキャッチフレーズ的に独り歩きしているんだったら交通政策を歪める可能性があると思う。東京のマスコミ・業界人周りにいる若者の間で車離れが進んでいるからと言って、それを無条件に全国民的な現象だと考えるような近視眼的なマスコミ人が大手を振っているとは考えたくないけど、どうもそれに近い現実がある気がしてならない。

 ついに出た メンヘラビッチが躍動するドラマ ”ホームランド”

 テレビドラマのキャラクターに感じる親しみは現実の友人に感じるものと変わらない、という研究についての記事を昔見たことがあります。映画と違って時間数が長い、1クール=3ヶ月間の時間を共にする、などの理由があるからだと思います。それゆえにドラマのキャラクターの設定というのはストーリー以上に重要なのではないでしょうか?先日最終話が記録的な視聴率を記録した「半沢直樹」も、半沢直樹はじめ大和田専務や黒崎監査官などの魅力的なキャラクターが多かったと思います。

 CIAの諜報部員キャリー・マティソンを中心にCIAの対テロ作戦が描かれる本作「ホームランド」はゴールデングローブ賞を受賞したアメリカのドラマで、現在日本では第2シーズンまでレンタルができます。アメリカでは今秋から第3シーズンが開始になるようです。

 20世紀フォックスはキャリーを「幸薄女」と銘打ってこのドラマをPRしてますが、まぁなんというか完全にメンヘラビッチ以外の何物でもない。北欧系の厳しい顔立ちと大柄な印象を受けるキャリーは一見頼りがいのある姐御肌の諜報部員に見えるのですが、徐々にメッキがはがれていきます。許可なく盗聴器を仕掛けて監視していたのがばれて(包容力があってメンヘラに好かれそうな)上司に懲戒を言い渡されそうになると、何を思ったか体を使って見逃してもらおうとする(もちろん上司はまともな人なのでドン引きして拒絶する訳ですが…)、監視対象者(ニコラス・ブロディ:7年間イスラムテロリストの捕虜になっていた海兵隊員で、キャリーはブロディがイスラムテロリストに寝返ったのではないかと疑っている)と寝て情報を得るつもりが気付いたら完全に惚れ込んで身動きできなくなる等の見上げたドビッチぶりを発揮。

 「メンヘラ」といっても、「病み期なう」だの「もぅヤダ…疲れたょ」だのといったツイートでヒトのTLを汚しては気を引こうとするタイプのファッションメンヘラではなく、深刻な躁鬱病と闘っていてしかもそのことを職場であるCIAには黙っているというガチな設定。躁鬱病がCIAにばれて解雇される半狂乱のシーンや、ブロディの家の前で「世界がもうすぐ終わるのよ!!」と喚きながら警官に連行されるシーンはちょっと真に迫りすぎていて怖いくらい。

 それでもキャリーが憎めないのはとにかく責任感が強くてまっすぐな所。ブロディから話があるから家に行きたいと電話で言われたキャリーは、いそいそとナイトドレスみたいな服に着替えて化粧をばっちりして、ムーディーなジャズを流して、ワインを開けてブロディが来るのを待つんですが、やって来たブロディは玄関口で「もう僕に関わらないでほしい」と言い放って去っていく…その後キャリーが傷心のまま用意してあった二人分のワインをシンクに流すシーンでは思わずキャリーを抱きしめてあげたくなるので不思議です。周りの人に依存して生きていても仕事のことになると素晴らしいパフォーマンスを発揮するキャリーの姿は、不完全な僕らが社会と付き合う一つの道を示してくれているような気もします。

 もちろんキャリーのキャラ造形だけでなく、映画のような重厚な映像や、緊迫感があって細かい感情描写が光るストーリーにも引き込まれる「ホームランド」、絶対お勧めです。


ユン・チワン ”ワイルドスワン”

 著者の祖母が北洋軍閥のシュエ将軍の妾となってから彼女の一族がたどった運命を描いたノンフィクション。辛亥革命日中戦争国共内戦そして毛沢東による大躍進と文化大革命に至るまで中国の動乱に満ちた近代史に翻弄されながらも一族の絆を保ち続けた家族の姿に圧倒された。

 冴えない地方公務員の曾祖父は祖母を北洋軍閥の妾とすることで時勢に乗り自らも愛人を囲い曾祖母につらく当たる。妾にしては信じられない程豪勢な結婚式を将軍に挙げてもらい舞い上がったのもつかの間、将軍が建ててくれた故郷の豪邸で何年も将軍の帰りを待つうちに自分は全国に何人も囲われている現地妻の一人にすぎないと悟る祖母。シュエ将軍との間に母(夏徳鴻)が産まれる。

 シュエ将軍の死後は夏先生という医者の正妻として迎えられるが夏先生の親族は祖母につらく当たり、ついには自分の遺産が侵されるのを恐れた長男が抗議の自殺をしてしまう。それでも祖母への愛を貫いた夏先生は財産を一族に残して祖母とともに錦州で一から生活をスタートさせる。極貧の中から始まった生活だったが医師としての仕事ぶりを認められ徐々に人並みの生活ができるようになっていく。

 日本軍の撤退後、短期間のソ連軍による占領を経て国民党の支配がはじまる。十代後半の女学生だった母の眼に映ったのは、飢えに苦しむ庶民を片目に毎晩ぜいたくの限りを尽くす国民党の幹部たちだった。次第に母は共産党の活動に加わるようになっていく。1948年9月12日になると、「農村から都市を包囲する」戦略を採って来た共産党がついに錦州へ一斉攻撃を開始、錦州は陥落した。

 錦州の周囲でゲリラ活動を指揮し、錦州陥落後は共産党の幹部として市の宣伝部長に就任したばかりの父と母は、父が28歳、母が18歳の時に結婚した。このころから母も共産党の仕事を始めるようになる。当時の中国の都市では「単位」と呼ばれる職場と相互監視の目的を兼ねた組織に所属することが義務づけられていた。母の単位である婦女連合会のメンバーは母の事を良く思わず、実家に帰れば「ブルジョワ的慣習」、結婚式のために会議を中座すれば「革命よりも恋愛を優先させた」として母を非難し続けた。1949年の夏、蒋介石の軍勢を破って南進する共産党勢力に加わり、「噂と悪意に追われるようにして」父と母は錦州を後にした。

 父の故郷四川省イーピンまでの道のりは想像に絶する苦難に満ちていた。父は党内での階級が高いためジープに乗ることができたが、母の階級では徒歩で移動するしかなかったため何度も母は父に車に乗せて欲しいと頼んだが、身びいきを嫌う厳格な共産主義者である父はこれを頑として認めなかった。また、当時はまだ道中に国民党の残党がいて散発的な戦闘も発生していたので、父と母の一行は武装して大陸を横断した。あまりにも過酷な長征で体を壊した母は、途中立ち寄った南京で流産してしまう。母は離婚を申し出るが、経血で汚れた母の衣服を洗濯するという当時の男尊女卑的な中国ではおよそ考えられない行動で謝罪を示した父を見て考えを変える。

 1952年にイーピンで著者ユン・チアンが誕生した。著者は共産党の高級幹部の娘として何不自由ない生活を送るが、文化大革命によって両親が走資派として紅衛兵による弾圧を受けるようになると様々な困難に直面し、同時に家族の絆も強まっていく…。

 百田尚樹 ”永遠のゼロ”

 ひと月以上前にたまたま点けたテレビで百田尚樹氏の特集がやっていて興味を持ったので読んでみました。

 件の番組(情熱大陸)で協調されていたように、一つ一つのセンテンスが短く明解でとても読みやすい!というのが第一印象でした。主人公の戦闘機パイロットは中国前線に始まって、真珠湾ミッドウェー海戦ガダルカナル島マリアナ海戦、レイテ島、沖縄と転進していくんですが、まさに日本の太平洋戦史を網羅していて太平洋戦争の史実を勉強するとっかかりとしても最適だと思いました。こういうノンフィクション的な読み方もできる小説というのは勉強になるので好きです。

 惜しむべきは登場人物の描写が単純で、色々自分で解釈してみる余地が無いところでしょうか。二度三度読んでその度に違う感想を持つような作品だったらさらに良かったと思いますが、上述の「読みやすさ・明解さ」を優先すると難しいのでしょう。映画化もされるようだし読んでおいて損は無い作品だと思います。

"ガールフレンドエクスペリエンス" コールガールというもの

 映画評論家、町山智浩氏の新刊「雑食映画ガイド」で紹介されていた高級コールガールの日常を淡々と描いた山場もオチもないドキュメンタリータッチの映画。

 コールガールというのは日本ではあまりなじみが無いスタイルですが、この映画を見る限りデートしてレストランで飯食ってからホテルで…という感じのサーヴィスを提供するようです。面白いのはクライアントがコールガールと継続的な関係を結ぶ所で、一種の疑似恋愛の要素もあるのかもしれんません。クライアントだけでなくコールガールの方も愚痴や悩みを相手に打ち明けたりするシーンがこの事を物語っています。

 特にストーリーが無いこの映画なんですが、おっと思ったのはコールガールが一種の奢侈品のように描かれていて、ある種の憧れを喚起する点です。日本の性風俗にそういう高級感は無いので凄く新鮮でした。コールガールとの「エクスペリエンス」がスイス製の腕時計やファーストクラスのフライト、レクサスの新型車みたいにプレゼンされていて、コールガールを買うことが一種のステータスであるかのような錯覚を覚えます。

 日本にも不倫文化があってテストステロン過剰の金持ちは愛人を囲って同じようなことをするから高級コールガールはあまり需要が無い気がしますが、日本にもこういう世界があるのか…?と考えずにはいられません。

 ちなみに主人公のコールガールを演じるのはポルノ女優なんですが、映画の中に直接的なシーンはほとんど無く(むしろ普通の恋愛ものの映画よりも少ないかも)肩透かしでした。


スティーブン・キングの日本未発売新刊"11/22/63"

 まだ翻訳されてないスティーブン・キングの新作です。ブログ公開までに発売されちゃったらドヤ顔できないよ〜とハラハラして読みました。3月にフランスに行った時もパリのフナック(フランスの紀伊国屋みたいなお店。家電も売ってる。)でも平積みにしてキャンペーンしてたので、世界的に話題と言っても過言ではないのでは…?

 スティーブン・キングは”シャイニング”に代表されるホラー小説から”スタンドバイミー”のような少年時代への郷愁を呼び起こすような小説まで幅広い作風で知られる現代アメリカを代表する作家の一人で、”グリーン・マイル”や”ショーシャンクの空に”といったブロックバスタームービーの原作でも知られています。

 この"11/22/63"は高校教師ジェイクが1958年にタイムスリップしてケネディ暗殺を阻止するという筋です。これだけ読むと微妙な感じがしますがそこはキング、非常に緻密な描写でぐいぐいと読者を引き込んで離しません。この小説は過去への郷愁を感じさせかつSFやホラーの要素も併せ持つ、まさにスティーブン・キングの全てといった感じです。

 我々日本人にとってケネディ暗殺というのは、リベラルで人気者の大統領がイカれた男に暗殺された(FBIと軍産複合体の陰謀で殺されたという陰謀説もありますが)悲劇で、それ以上でも以下でもありませんが、アメリカ人にはそれ以上の大きな意味を持つ出来事のようです。もしケネディが暗殺されなかったらベトナム戦争があれほどまでに泥沼化しなかったかもしれないからです。ちなみにベトナム戦争では6万人のアメリカ軍人が戦死し、なんとこの戦死者数は第二次大戦の5分の1にも達します。

 話を"11/22/63"に戻します。主人公のジェイクは1958年にタイムスリップして1963年のケネディ大統領暗殺”未遂”まで5年間過去の世界(the world of past)に留まりますが、同じ職場に勤めるサディーという女性と恋に落ちて婚約します。このサディーとの関係がどうなるのかが物語の大きなポイントなんですが、非常に美しいラストが待っているので是非読んでいただきたいです。

ペーパーバック

Kindle

<追記 2013/9/30>

邦訳も出ました。